#Miraikanで考える生物多様性

水辺には、どんな生き物たちが暮らしている? ~生物調査に参加してきた!~

東京・お台場の日本科学未来館のある場所は昔は海だった……、ってご存じですか?
かつて東京湾にあった干潟域は、その90%以上が埋め立てにより失われ、湾の面積も20%も小さくなったといわれています。
今回は、一度は埋め立てられた土地で、生き物たちの生息環境を人工的につくるという取り組みが行われている「千葉県行徳鳥獣保護区」の生物調査に参加してきました!

みなさん、こんにちは。科学コミュニケーターの遠藤です。
森の緑と空の青さが美しいこの季節、いかがお過ごしですか?
連載4回目となる「#Miraikanで考える生物多様性」ブログは、未来館を離れて、さまざまな生き物が暮らす「現場」からお届けします!

中央にあるのが、千葉県行徳鳥獣保護区。住宅地などに囲まれている。

今回訪れた行徳鳥獣保護区のある市川市の海岸部は、1960年代までは干潟や汽水(淡水と海水の中間あたりの塩分濃度の水)の湿地、淡水湿地が広がっていて、日本有数の水鳥の飛来地だったそうです。1970年頃、開発によりこの一帯が埋め立てられました。埋め立てにより野鳥たちの生息環境が失われるなかで、彼らの生息できる環境をつくることを目指して造成されたのが「行徳鳥獣保護区」です。1979年から千葉県指定の鳥獣保護区に指定されています。
こちらでは、認定NPO法人 行徳自然ほごくらぶの主催で定期的に自然観察会や一般の方も参加できる生物調査が行われています。今回は、2015年から毎月一度開催されていている「江戸前干潟研究学校」に参加してきました。

保護区内には、干潟だけでなく、湿地や田んぼもあります。水辺の水質だけみても、海水、汽水、淡水といったさまざまな環境があります。今回は、景観や水質の異なる環境をめぐりながら、生き物調査が行われました。 それぞれの環境でどのような生き物が暮らしていたのでしょうか? 

江戸前干潟研究学校を主催されている認定NPO法人 NPO行徳自然ほごくらぶの野長瀬さん(右)と講師の東邦大学名誉教授の風呂田さん(左)。

「江戸前干潟研究学校」の生物調査では、スタッフの方が前日に設置した置き網を回収し、そのなかに入っていた生物の種類と数を調べていきます。マハゼなど、種によっては体長などのデータも記録されていました。(本ブログでは、調査で記録されたすべての種をご紹介できてはおらず、一部を抜粋しておりますことをご了承いただけますと幸いです。また、置き網で採集された生物だけでなく、調査地点の周辺でみつけた生き物も含めてご紹介しています。)

置き網は保護区内の10か所に設置されています。

当日配られた資料より(著作権: NPO 行徳自然ほごくらぶ)
スタッフの方が置き網を回収します。
水質の調査をしている様子
塩分濃度や水温、溶存酸素量などの水質も調査しています。

それではまず、海水の調査地点をみてみましょう!

陸側と沖側にひとつずつ置き網が設置されていた調査地点。近くには常時開いている水門があって、東京湾とつながっています。そのため、東京湾から生き物たちがやってくる通り道にもなっているそうです。

当日配られた資料より(著作権: NPO行徳自然ほごくらぶ)
奥の青い色の構造物が水門。東京湾とつながっている。

ここでどんな生き物がとれたかというと…、
マハゼ、ボラ、コノシロ、マコガレイ、イシガレイ、トウゴロイワシなどの魚の名前が飛び交いました。

下の写真の貝はツメタガイです。こちらは肉食性の貝だそうで、アサリなどの二枚貝を食べるとのこと。干潟の砂の上に黒いおわんのようなかたまりの卵を産むのだそう。今回は見ることはできませんでしたが、いつか見てみたい!

ツメタガイ

ミズクラゲやユビナガホンヤドカリもいました。写真のユビナガホンヤドカリは、ホソウミニナの貝殻を使っていました。こちらの種は、塩性の湿地から干潟まで広く生息している種だそうです。

ユビナガホンヤドカリ 姿は貝のなかに隠れていて見えないですね。

カレイ科の一種。(イシガレイかマコガレイ)

砂浜が広がっていた別の調査地点の網でも、同じくボラやマハゼ、ミズクラゲがみられました。こちらでは、ユビナガスジエビというエビもみられました。

別の海水の調査地点。こちらは、砂浜が広がっていました。

マハゼは、湾の内側や河口の水深が浅いところにみられる魚だそうです。頭が大きく、口が下を向いています。

マハゼ。砂干潟や塩性の湿地に生息しているそうです。

参加者の方がミズクラゲを手にとって、じっくり観察されていました。クラゲというと毒を連想されるかもしれませんが、ミズクラゲの毒は弱いとのことでした。

ミズクラゲ。きれい!

砂浜には、ホソウミニナの姿も。砂泥質の干潟や潮だまりの砂地などに暮らしているそうです。今回観察された場所も砂地でした。ホソウミニナと似ている種でウミニナという種がいて、1980年代の東京湾ではたくさんいたそうですが、現在はほとんどみられなくなってしまったそうです。

砂浜にいた、ホソウミニナ
オゴノリという海藻だそうです。食中毒を起こす危険があるので、生食はしないほうがいいとのこと。

対岸には、たくさんのカワウたちがいました。今年は8000羽くらい確認されているそう。

カワウたち

カワウについては、漁業被害や巣やねぐらの場所となっている樹木の枯死などの問題について聞いたことがある方もいるかもしれません。そんなカワウですが、実は1970 年代に絶滅が危惧されるほどに個体数が少なくなった過去があります。その後1980 年代に入り、個体数と分布が回復し、増加に転ずるようになったそうです。行徳鳥獣保護区でも、カワウが利用する場所が広まったことにより、住宅街への悪臭などが懸念されているため、定期的な調査とともに、範囲を区切っての追い払いや樹木が枯死している場所に営巣やぐらを設置するなど、保護と管理のバランスをとりながら対策をとられているそうです。

次は、汽水域の調査地点をみてみましょう。

網の回収の様子

こちらの調査地点では、シラタエビというきれいなエビがいました!このエビは、海水に淡水が混じる場所で生息している種とのこと。個体によっても少し模様が違ったりするのが、面白かったです。ちなみに、保護区内でみられるエビは複数種いるので、見分け方も教えてもらいました。

シラタエビ

網のなかには、他にも今年生まれのマハゼ、ボラなどもみられました。

とれた生物の種類を分類。 基本的には数や種類を調べたあとに、もとの場所に返していました。

調査地点の近くでは、トビハゼの姿も…! 東京湾はトビハゼの分布の北限だそうです。深い泥の干潟がないと卵を産めないとのことで、住める場所が限られているそう。東京都のレッドリストでは絶滅危惧種(絶滅危惧IA類:東京都レッドリスト2020年版)に指定されています。

調査地点の近くにいたトビハゼ

次は、池に設置されていた置き網。ここは、淡水の水質です。

池の様子

私が一番印象に残ったのはテナガエビ!なんてかっこいいエビなのでしょう。テナガという名前から連想されるように、ハサミが長いのが特徴です。このハサミで餌となる生き物を掴んで捕食するそうです。

テナガエビ。確かにハサミが長いですね。

チュウゴクスジエビと呼ばれる外来種のエビも確認されました。釣りの餌として販売されており、そうした人為的な経路から入ってきたのではないかと推測されています。本来は淡水にすんでいるエビだそう。

チュウゴクスジエビとスジエビの見分け方を聞きました。卵を持っていますね。

ほかにもヨシノボリ、ウキゴリ、モツゴといった魚もみられました。海水域でみられた魚とは異なる種類の魚たちに出会えました。 また、クサガメと緊急対策外来種のアカミミガメなどのカメも確認されました。

ヤゴも! コシアキトンボだそうです

最後に、淡水の調査地点ですが、ここで衝撃的な場面に遭遇しました。 なんと網にかかっていたのは特定外来生物のウシガエルのおたまじゃくし(250匹!)と緊急対策外来種のアメリカザリガニでした。

淡水池の網の回収の様子
アメリカザリガニ。参加者の方が撮影に協力してくださいました。

他の淡水池では、ドジョウやモツゴ、タモロコ、コオイムシも観察されました。特定外来生物であるカダヤシも確認されました。

淡水池

日本全国でみられるというモツゴですが、よくみると個体によって模様の明瞭さなどが違うそうです。たくさん生息している種では、個体の模様の違いなどを観察するのも楽しそうですね。

モツゴ。ピントがあってなくてごめんなさい…。

ここまでで紹介することはできませんでしたが、今回の調査では、カニの仲間など他にもいろいろな生物に出会いました。

田んぼも。ここにも、また違う生物たちが生息しているのかな?

歩いて移動できるほどの範囲でも、水質や周囲の環境が異なることで、生息する生き物が大きく異なることを実感しました。外からみているだけではわからない、水辺の生態系の世界がそこにはありました。実際に生き物の世界をのぞくことで、「生物多様性」ってどういうことなのかを感じることができたような気がしました。同時に、開発による自然の消失、人の手で自然を再生していくということ、外来種の問題など、生物多様性の保全に関わる課題についても改めて考える機会となりました。

それでは最後に、読者のみなさんに生き物の観察バトンを託したいと思います!
今年の夏は、森や海で、生き物たちに出会ってみませんか?
多くの方にぜひ「生物多様性」を感じてみていただけたら嬉しいです。 そして、自然のなかで気づいたこと、考えたことがあったら、ぜひ未来館で一緒にお話ししましょう!

撮影を手伝ってくれた参加者の男の子。どうもありがとうございました!

謝辞
取材に協力いただいた認定NPO法人 NPO行徳自然ほごくらぶの野長瀬さんと江戸前干潟研究学校講師の東邦大学名誉教授の風呂田さんに深く御礼申し上げます。

注釈
アカミミガメとアメリカザリガニについては、特定外来生物の指定に向け検討が進められています。令和4年5月18日には改正された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)が公布されています。

【参考資料】
・環境省HP内 日本の外来種対策:http://www.env.go.jp/nature/intro/index.html
・国土交通省関東地方整備局 東京港事務局 HP: https://www.pa.ktr.mlit.go.jp/tokyo/index.htm
・千葉県HP “行徳湿地(行徳鳥獣保護区)の利用について” : https://www.pref.chiba.lg.jp/shizen/gyoutoku.html
・認定NPO法人 NPO行徳自然ほごくらぶ 公式Webサイト
・環境省(2013) 特定鳥獣保護管理計画作成のための ガイドライン及び保護管理の手引き (カワウ編)
・沼田眞・風呂田利夫(編)(1997) 『東京湾の生物誌 (東京湾シリーズ)』.築地書館.
・風呂田利夫(2007) 東京湾の環境保全と干潟の役割. 安全工学. 46(1): 10-15.
・風呂田利夫・多留聖典 (2016)『干潟に潜む生き物の生態と見つけ方がわかる 干潟生物観察図鑑』.株式会社 誠文堂新光社.


「#Miraikanで考える生物多様性」では、科学コミュニケーターたちが生物多様性に関するブログを発信しています。
① 生物多様性ってなんだっけ?~教科書読んでみた~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220523post-464.html
② いま世界で注目されている生物多様性のいろいろ ~香坂玲さんに聞いてみた【前編】~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220527content-18.html
③ わたしの「推しムシ」の話~みんなで語りあいたい推し○○~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220603post-466.html

「環境・エネルギー」の記事一覧