「科学を伝える」だけじゃない?! ~みなさんと一緒に未来をつくる科学コミュニケーターのリアルな仕事~

みなさん、日本科学未来館に来たことはありますか? もし来たことがあるなら、そこでどんなものを見ましたか? 常設展示ゾーンでは、展示そのものだけでなく、接遇スタッフ、清掃スタッフ、テクニカルスタッフなど、さまざまなスタッフの姿も見ることができます。その中でも、青い襟のついた白いジャケットを着ているスタッフは 「科学コミュニケーター」 。未来館では現在30名以上の科学コミュニケーターが働いています。私もその科学コミュニケーターの一人で、今年4月に入職したセーラ・ホクスといいます。

同期入職の科学コミュニケーター2人と一緒に2か月間の研修を受けて、一所懸命この新しい仕事に取り組み始めました。この仕事の面白さや多様性を共有したくて、新人3人で7月末に 「1日科学コミュニケーター体験 ~科学を『伝える』だけじゃない~」 という科学コミュニケーターの仕事を体験できるイベントを開催しました。3日間のイベントに、計15人の小学4~6年生が 「1日科学コミュニケーター」 として参加してくれました。

科学コミュニケーターはどのような仕事をするでしょう?

朝一番、子どもたちに 「科学コミュニケーターの仕事とは何だと思いますか?」 と聞いてみました。すると、いろいろなイメージが出てきました。
「実験する」
「宣伝する」
「館内を案内する」
「来館者向けの体験やワークショップのサポートをする」
「科学を伝える」

とくに 「科学を伝える」 という意見は多かったですが、私たち未来館の科学コミュニケーターは、ただ 「科学を伝える」 だけではありません。なぜかというと、みなさんと一緒に未来をつくりたいからです。そのため 「科学」 と 「みなさん」 をつなぐことも大事にしています。

私たちは、このイベントを通して、少しでも子どもたちにこれを体験してもらいたいと思いました。そして、子どもたちに3つのミッションに取り組んでもらい、科学コミュニケーターの仕事とは何かを子どもたちと一緒に考えました。

最初のミッション1は 「展示をわかりやすく伝える」 でした。子どもたちは一人ひとりジオ・スコープというたくさんの地図が入った展示から好きな地図を選びました。そして、「展示をわかりやすく伝える」 ためのコツについてレクチャーを受けて、集中して練習を繰り返し、わかりやすい説明ができるようになりました。

世界の地震を表す地図を説明中の1日科学コミュニケーター

これで、1日科学コミュニケーターたちは 「伝える」 ことができるようになりましたが、それは一方向のコミュニケーションです。一緒に未来をつくるためには相手の意見を聞くことや双方向の関係が大切です。そこで、1日科学コミュニケーターたちはミッション2 「来館者に質問する」 に取り組んで、来館者から意見を引き出すことに挑戦しました。考えついた質問は 「好きな鉱物・宝石はありますか?」 から、「関東大震災という言葉を知っていますか?」 まで、本当にさまざまでした。

緊張しながらも、1日科学コミュニケーターたちは勇気をもって、来館者のジオ・スコープに関する感想や意見を引き出そうとフロアに出ました。午前中練習した説明をした後、来館者にいろいろな質問をしてみました。来館者がどう答えたらいいかわからなさそうなときでも子どもたちはしっかり追加質問したり、例をあげたり、お互いを助け合ったりして、臨機応変な対応が見事にできました。

インタビュー中の1日科学コミュニケーター

この2つ目のミッションを経て、質問を受けた来館者も1日科学コミュニケーターたちもジオ・スコープの地図についてより深く考えるきっかけになりました。例えばナガサキアゲハの生息地が北のほうへ拡大していることが見える地図に関して来館者に質問する1日科学コミュニケーターがいました。「生き物と温暖化の関係について知っていますか?」 と質問すると、「暖かいところの生き物が北へ移動している。そうでないと生きていけないのかもしれない。」 という答えを聞くことができました。この答えによって、1日科学コミュニケーターも来館者も 「涼しいところに住んでいる動物は温暖化で生息地を失う可能性がある」 ということに気がつきました。

来館者の意見を得た1日科学コミュニケーターたちはこれで一方的な説明を超えたコミュニケーションができて、新しい気づきもできました。では、これで目指している 「科学とみなさんをつなぐこと」 はできたのでしょうか? 

今回は1日だけの体験ということもあって、1、2組ぐらいの来館者にしか質問できませんでした。ということは、この段階で来館者の数人につなぐことができましたが、それはまだまだ多くの 「みなさん」 につなぐまでほど遠いです。

そこで、ミッション3 「展示・質問の内容を来館者に発表する」 に取り組みます。1日科学コミュニケーターたちはミッション1、2で取り組んだこと、その体験からわかった科学コミュニケーターの仕事について、スライドにまとめて多くの来館者と共有しました
「お客さんの話も聞いて、対話する」
「科学コミュニケーターは科学とお客さんの情報交流の中間地点」
「伝えるだけだと一方的で、それ以上の関係の深まりにはならない」

世界の鉱物について発表している1日科学コミュニケーター

朝一番、「科学コミュニケーターの仕事とは何だと思いますか?」 と聞いたときと違う意見がいろいろ出てきました。この1日を通して、1日科学コミュニケーターたちの科学コミュニケーターについての理解は結構深まったように見えます。

そして子どもたちだけではなく、私たちにとっても、科学コミュニケーターの役割について改めて考えるきっかけになりました。とくに、質問と意見の共有の大切さに気づきました。これから常設展示ゾーンで来館者との対話に取り組むときに、より幅広い質問をしたり、より積極的に来館者の意見や情報の共有に取り組んだりしようと思います。これからも、「科学」 と 「みなさん」 と一緒に未来をつくれる科学コミュニケーターになるように頑張っていきたいと思います。

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