トップ画像出典:東京電力ホールディングス
シリーズ「東日本大震災の伝承」は12年前に起きた東日本大震災の経験や教訓を次世代につなげる活動を紹介するブログです。前回のブログはこちら
東日本大震災の伝承vol.1 わたしたちは過去の災害の記録から何を学べるか?
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20230227post-486.html
「事故であらわになったリスクを抱える、原発という科学技術とどのように付き合いますか?」
あなたなら、この問いにどう答えますか?
この問いは日本科学未来館の常設展示の中で「問いボード」を使ってお客様に投げかけ続けてきたものです。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と津波によって、東北地方を中心に広い地域が被災しました。福島県双葉郡大熊町と双葉町にまたがって設置された福島第一原子力発電所も地震、津波に襲われ全電源喪失します。原子力施設を制御できなくなり、最終的には大量の放射性物質が大気中および海洋に放出される深刻な事故となりました。
原子力施設の事故の深刻度を表す国際原子力事象評価尺度では、福島第一原子力発電所事故は、1986年に発生したチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故と同じ最も深刻なレベル7に位置付けられています。
それまで安全で効率的に発電できるとされていた原発が深刻な事故を引き起こしたことで、原発のもつリスクや、使い方が大きく見直されることになりました。2013年9月には日本国内すべての原発が停止し、過去のものより厳しい新規制基準のもとで徐々に再稼働がはじまっています。
事故から10年以上が経過した今でも原発が大きなリスクを伴うものであるということは変わりません。社会として原発とどのように付き合うべきなのか。この難しい問いに対して、お客様から集まった3500件以上の意見の一部を紹介します。
あなた自身の思いと比べながら、さまざまな意見に目を通してみてください。
みんなの意見を見る前に、原発事故についてもっと詳しく知りたいという方は、未来館の展示をご覧ください。リンク先の詳しい解説タブをクリック。
https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/world/missionsurvival/
原発は危ないものだから使いたくない
深刻かつ長期間にわたる事故の影響から、原発の抱えるリスクの大きさを懸念する声が多くあがりました。事故によって放射性物質が飛散すること以外にも、放射性廃棄物の処分方法があいまいであることや、テロや戦争で原発が攻撃対象となりうることもリスクとして指摘されています。
原発事故は、福島県双葉郡と周辺地域を中心に非常に広範囲に影響を及ぼしました。大量の放射性物質が放出されたことにより、最大で約1150km2(東京23区の1.8倍ほどの広さ)を対象に避難指示が出され、その地域の住人たちは何年も自分の家に戻ることができなくなります。長引く避難生活の中で体調を崩してしまう方や亡くなる方もいました。
放射性物質は福島だけでなく、日本各地や世界に飛散していきました。首都圏でも局所的に高い放射線量が確認されるなど、原発事故の影響範囲は計り知れません。
2023年3月現在までに当初の避難指示区域はかなり縮小したものの、住民の帰還がいまだ叶わない地域が多く残されていますし、避難指示が解除された地域でも住民の生活基盤が失われたままの状態のところも少なくありません。事故を起こした原子炉の片づけについても、いつまでにどのような形で完了できるのか見通しは立っていません。原発事故自体がいまだ終わっていないといえます。
大きなリスクを抱えながら運用されている原発は、やはり使わない方がいいものでしょうか。
原発がないと困るし、使っていこう
電力ひっ迫、節電要請、電気代の高騰……と電気を使い続けるには不安になる出来事が最近増えました。その影響か、原発の高い発電能力へ期待をもつ意見が、「問いボード」設置期間の後半にかけて増えた印象です。
国内発電量のうち原発が占める割合は2010年度25.1%、2014年度0%、2021年度6.9 %と推移しています。事故直後には原発の発電分を補うように火力発電による発電量が増えたものの、その後、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの増加と、全般的な省エネルギー、そして原発の再稼働に伴い、火力発電による発電量は下がっていきました。日本の電力事情がこの10年で変化し続けていることがわかります。
現在は地球温暖化対策として、社会全体で二酸化炭素排出量の削減に取り組んでいます。化石エネルギーを大量に利用する火力発電を代替する電源として、二酸化炭素排出量の少ない再生可能エネルギーと合わせて、原発ももっと活用するべきなのでしょうか。
想定外も想定するくらい慎重に付き合っていこう
東日本大震災の経験をもとに原発の管理やルールを改善する意見もあります。事故発生のリスクを下げるために、安全管理の基準を厳しくするというものです。その他にも、どれだけリスクを下げてもゼロにすることはできず事故は必ず起きるとして、事故が起こった場合の対応も決めておくべきという意見もありました。
福島第一原子力発電所事故以外にもチョルノービリ原発事故、スリーマイル島原発事故、茨城県東海村の核燃料加工施設での事故など深刻な原子力事故が発生しました。これらの事例から自然災害や施設の破損、人為的なミスをきっかけとして深刻な事態を招くことがわかっています。
過去の経験を踏まえて、事故を防ぐためのリスク管理や事故発生を想定した対策はどこまで実現できるでしょうか。決められたルールや基準がこの先も守られるために、何が必要でしょうか。
そもそも、原発のことがよくわからない
原発や事故のことは「わからない」「難しい」といった意見もいただきました。また、多くの人に原発事故のことを知ってもらう手段をつくるべきではないかという意見もありました。
原発事故から約12年が経過し、当時の記憶が薄れ、事故のことを知らない世代が増えています。また、原発事故について調べてみようとすると、あまりにたくさんの情報が出てきたり、専門知識がないとわからないような話題が多かったりと、なかなか大変です。
こういった事情もあり、いまだ終わっていない原発事故であるのに、事故のことや教訓が十分に語り継がれていないという課題がお客様の意見から見えてきました。
被災地じゃない場所でも伝承を続ける
第1回ブログで柴山先生もおっしゃっていましたが、震災から12年が経って、被災地以外で東日本大震災や原発事故の記憶の風化は起こっています。東京にある未来館では東日本大震災を科学的に分析し伝える活動を続けており、常設展示の中でも東日本大震災の解説を行っていますが、記憶の風化は未来館の中でも例外ではありません。だからこそ、東日本大震災を分析するだけでなく次の世代へと伝承する活動が非常に重要となります。
東日本大震災や原発事故の出来事を正確に、わかりやすく伝え、教訓を次の世代へと受け継ぐこと。東日本大震災の被災地域や、原発事故の避難地域の復興を追い続けること。何十年後かわからない原発の廃炉作業完了を見届け、原発という科学技術との付き合い方を考えること。これからできることや、やらないといけないことがたくさんあります。
最後に
シリーズ「東日本大震災の伝承」の第2回は私が働いている日本科学未来館の活動の一部を紹介しました。科学館としての視点で、東日本大震災を見つめ、伝え、お客様とともに考える活動をこれまで続けてきました。
事故から時間が経っても原発という科学技術との付き合いの答えはいまだ見つかっておらず、このブログを読んでかえってモヤモヤとしたという方もいるかもしれません。だからこそ、みなさんといっしょに考え続けたい問いなんです。これから社会は原発とどのように付き合っていくのか、そして福島第一原子力発電所事故をこれからどうするのか、よかったらいっしょに考えてもらえませんか。