#Miraikanで考える生物多様性

都市の自然を考えること

こんにちは! 科学コミュニケーターの片岡です。

今回も「#Miraikanで考える生物多様性」企画シリーズです!

そもそも! 「生物多様性」とは、とても簡単にまとめると、様々な種類の生物がいることです(「生物多様性」が気になる方はこちらのブログもご覧ください:「生物多様性ってなんだっけ?~教科書よんでみた~」)。そう考えると、日本科学未来館は東京お台場にある科学館のため、このような都市部で「生物多様性」について考えることは難しいと思う方も多いかもしれません。

ですが、都市には全く生き物がいないでしょうか?

そんなことはありません!

道路や歩道にはクスノキなどの街路樹があり、そこにはハトやスズメなどの鳥類も見られます。さらに、近所の公園にはタンポポなど様々な種類の植物が生育していて、地面をよくみるとアリやダンゴムシなどの小さな生き物たちが活動しています。

(お台場近辺でも様々な鳥たちが見られます! :~いつでも、どこからでも始められる鳥探しに挑戦!~未来館に着くまでに、何種類の鳥に出会える?

そんな都市にある身近な自然をきっかけに、生物多様性について考えることができそうです!

そこで今回は、都市と生物多様性の共存を目指して、都市の自然がもたらす影響や、生物多様性がもつ良い効果を活かした都市のあり方を研究されている、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授の曽我昌史さんにお話をうかがいました!

はじめは、蝶。

曽我さんは、はじめから都市の自然がもたらす影響を調べていたわけではないそうです。元々は、蝶(チョウ)が暮らす環境について研究をされていて、特に、都市に多くの種類のチョウが生息できるようになるには、どのように緑地を配置すればよいか、ということを調べていたそうです。

東京大学大学院 曽我昌史さん

曽我さん:

あるとき「本来、都市は人間が生活する場所であり、そもそも珍しい種類の生物はいない。生物多様性は自然保護区などで守ればよく、都市で生物多様性を保全することを考える必要はない」という方に会ったことがあります。そこで改めて、“なぜ都市で生物を守る必要があるのか?”を考えました。

もちろん、多くの都市があるような標高が低い地域などにしか生息していない生物もいて、その生物を保全することも必要です。ですが都市で生物を守ることは、自然生態系にとって良いだけでなく、私たち人間にも良い影響があるんです。そこから、自然生態系の保全や自然の効果をどう人間が有効活用できるのか、という研究に移りました。


都市の自然の重要さは、まだあまり知られていないかもしれません。ですが、都市の自然は私たちの生活のとても近くにある存在でもあります。「自然は大切だから」だけでなく「自分たちにとって重要だから」という理由が、都市部の自然でも考えられるといいます。

大事だと分かっていても……

現在、世界で生物の多様性がどんどん減少しています。そもそも私たち人間は、様々な生物が多様に生息していることで、色とりどりの食事、キレイな水や空気を安定して利用でき、娯楽やレクリエーションなどを楽しむことができています。生物多様性がこのまま減少し続けてしまうと、私たちは今までのような生活をおくることが難しくなるといわれています。

(全世界では、生物多様性を保全するために議論がされています。その15回目の会議 COP15202212月に開催されました。COP15に関するブログはこちら:いま世界で注目されている生物多様性のいろいろ ~香坂玲さんに聞いてみた【前編】~

ですが、「生物多様性がどんどん減少している! 私の生活もやばい!」と実感している人はどれくらいいるでしょうか。ちなみに片岡は、自分の住んでいる地域と生物多様性が減少している現場のイメージが遠く、生活に差し迫っていると感じることが難しいと思ってしまいます。なかなか危機感を持てず、どこか他人事に思ってしまう自分はダメなのでしょうか……


曽我さん:

こんな事例があります。

日本と海外を行き来する渡り鳥がいるとき、この鳥を保全するためには日本だけでなく、移り住む国や中継地点の生息地すべてを保全する必要があります。この情報を伝えた人々とそうでない人々に、渡り鳥が移り住む国での自然を保全する事業に対する支払金額をきいたところ、両者が示す金額に大きな差はありませんでした。

情報提供をすれば、協力してくれる人が増えると思っていたので、意外な結果でした。メッセージなど、情報の伝え方も大事なのだと思います。


渡り鳥と考える人(イラスト by 片岡)

自然を保全する情報を聞いただけでは、これまでの自分の生活を変えて行動に移そうと思うことは、多くの人にとってもなかなか難しいのかもしれません。自分だけ・・・・・・と感じていた罪悪感が少し和らぎましたが、このままでは生物多様性は減っていく一方であることも事実です。

私たちは、どうすれば少しずつでも前に進めるでしょうか。

近場から考える

離れた現場を考えることが難しい、はたまた、「人間の生活が危ぶまれている!」と規模の大きな話から危機感を抱くこともすぐには難しい……。

では、身近なところや個人的なメリットをモチベーションにしてみるのはどうでしょう?

例えば、片岡は虫などの小さい生き物が好きです(片岡の推しムシが気になる方はこちらもご覧ください:わたしの「推しムシ」の話~みんなで語りあいたい推し○○~)。街路樹や公園などでさまざまな生物が見られることをとても楽しく思います。そのため、小さくても良いので、生き物が暮らせそうな緑地が町のあちこちにあると嬉しいですし、それに貢献できるなら自分も何かアクションしてみようと思えます。

虫が苦手な方でも、四季折々に移り変わる樹木や草花を楽しんでいたりしませんか? 身近にあるからこそいつでも感じることができます。片岡も含め、生き物が好きな人にとっては、「これらを今後も楽しみたい」と思うことが、一歩を踏み出すモチベーションの1つになりそうです。

また、「生物にはそこまで興味ないな、むしろ苦手」と思う方も、自分の健康には関心があるのではないでしょうか。

日常の中で自然とのふれあいがあることは、精神面や身体面に良い影響があるそうです。例えば、窓から緑地が見えたり、小鳥のさえずりが聞こえる場所に住んでいたりする人々は、心の健康にポジティブな影響があるそうです。また、ある市内では、街路樹が増えたとき、市民が抱える心臓病や糖尿病などのリスクが低下することも分かったそうです。


曽我さん:

大前提として、みんなが自然好きなわけではないです。そのため、健康や福利など自分の日常生活にとってどんな良いことがあるのか具体的に、分かりやすく示すことも大切だと思っています。

似た事例が「野菜」。おいしくなくても、健康に良いから食べるという人もいますよね。同じように、健康に対する自然の便益もどれくらいかが分かれば、そして、それが当たり前になれば、自然と緑と触れあおうというかたちになってくるのではないかと期待しています。


生き物好き、風景好き、健康のためなどの、様々なモチベーション(イラスト by 片岡)

共存する未来を考える

身近なところから見ても、自然は様々な良い影響を与えてくれます。そして、広く様々な地域に生息し、都市部でもよく見かけることができるスズメやトンボなどの生き物たちも大きく関係していたりするそうです。しかし現在、そんな生物たちも減少しているそうです。


曽我さん:

よく保全する対象になりやすい「希少種」は、数は少ないが特定の環境に生息しているため、その地域で対策をたてればよく、比較的守りやすかったりします。ですが、都市も含めた様々な地域で暮らしている生物は、生活のために使っている場所も様々なので、みんなで協力して、全体で生き物が暮らしやすい環境を目指す必要があり、そちらの方が守りづらいということもあります。

さらに、新しく生まれた人々にとっては、減少した自然の状態が「通常の状態」として認識されます。そうすると、世代を重ねるにつれどんどん少ない状態が引き継がれ、自然の減少が進み、生き物がいなくなっていたとしても、変化に気が付きにくく、問題意識をもつことが難しくなることがあります。そういう意味でも、都市の自然が残っていることは重要だと思います。


いつも見ていた生物たちがいなくなる、またこれからの世代の人々にとってはその状態が「当たり前」になっている、というのは少し寂しさも感じます。しかし、一方で自然が身近にある事で不利益を受ける人々もいます。

例えば、自然が多くなれば、虫などの小さな生き物も多く生息できますが、それを不快に感じる人も多いでしょう。樹木が増えれば、枯れ葉や木の実で道を汚すこともあります。また、土の道が増えれば、衣服が汚れてしまったり、移動が大変になったりします。

都市部でも見かける生物たち(イラスト by 片岡)

都市は私たち人間の生活の場になっているため、「自然は大切だから緑であふれる都市にしよう!」と呼び掛けても理解されないことの方が多そうです。そのため、私たちが快適に暮らすことと、自然や生物多様性が豊かさにあり続けることをどのように共存させるのかを考えていく必要があります。


曽我さん:

同じく居住空間を共有するにあたり、生き物好きだけでなく、生き物が苦手な人ともどこまでなら許容できるのか、などを話あっていくことがより重要だと感じます。

また、人だけでなく、都市も地域によって気候や生息している生物は異なります。そのため、仮に自然のあり方の基本方針を国が定めたとして、詳細は地域ごとになってきます。ある程度の大枠を参考にしながら、自分の地域ではどのように適応できるのかを考える必要があり、そのためにも自分の地域を知ることが必要であるように思います。


お話をしてくださる曽我さん

自分がどのような町で暮らしたいのか、だけでなく、周りの人の想いや地域の自然の特徴なども合わせて考えることが大切だそうです。

曽我さん、この度は意外と意識していなかった「都市の自然」という視点から、様々なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。身近な自然をきっかけに、日々の生活や地域を考えることの大切さを感じました。今後は、森林公園などだけではなく、家の近くの小さな緑地も注目してみたいと思います!

ぜひ皆さんも、おうちの近く、そして未来館に来たときには一緒に考えていきましょう!

ご紹介した日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ

1.生物多様性ってなんだっけ?~教科書よんでみた~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220523post-464.html

2.~いつでも、どこからでも始められる鳥探しに挑戦!~ 未来館に着くまでに、何種類の鳥に出会える?
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220217post-457.html

3.いま世界で注目されている生物多様性のいろいろ ~香坂玲さんに聞いてみた【前編】~
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220527content-18.html

4.わたしの「推しムシ」の話~みんなで語りあいたい推し○○
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20220603post-466.html

「環境・エネルギー」の記事一覧