2016年ノーベル生理学・医学賞を予想する①その1 アレルギー反応機構の解明~IgEの発見編

こんにちは!科学コミュニケーターの石田茉利奈です。
未来館恒例のノーベル賞予想の時期になりました。初参加ですが、わくわく!
なぜなら、ノーベル賞をきっかけに自分のイチ推し研究をご紹介できるから!こんなにすごい研究、発見があるのかと興味を持って頂けたらうれしいです。

それでは生理学・医学賞の予想、第一弾!早速予想します!

私の予想は、多くの現代人を悩ますアレルギーが生じるメカニズムを解き明かし、治療への道を開いたこちらのお二方です!!

アレルギー反応機構の解明

(左)
石坂公成(いしざか きみしげ)博士
1925年生まれ。
ラホイヤアレルギー免疫研究所名誉所長。
アレルギーを起こす原因である免疫グロブリンE(IgE)を発見。
写真提供:国際科学技術財団
(右)
坂口志文(さかぐち しもん)博士
1951年生まれ。
大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授。
過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞を発見。
写真提供:大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)

このブログでは前編として、石坂公成博士の功績をご紹介します!(ブログ二部作となります。ぜひお付き合いください。)

石坂博士はアレルギーをもたらす抗体IgEを発見し、アレルギー症状が引き起こされる機構を解明しました。花粉症や食物アレルギーなど私たちを悩ますアレルギーの原因を発見したのが日本の先生だったとは、少し驚きではないでしょうか?

石坂博士の発見は免疫学の中でもどこに当たるのか、3段階に分けて詳しくご紹介します。

① 免疫ってなに?
② 抗体ってなに?~石坂博士IgE発見物語~
③ IgE抗体がアレルギーを引き起こす仕組み

① 免疫ってなに?

免疫とは、「自分ではないもの」を攻撃する仕組みです。自分ではないものというのは細菌、ウイルス、毒素...だけでなく、もはや「自分」とはいえないもの、例えばウイルスに感染された自分の細胞や死んでしまった細胞、がん化した細胞も含みます。
免疫の仕組みはとても複雑です。ですので、異物(=自分ではないもの)を察知し攻撃するまでのおおまかな免疫の仕組みを紹介します。ここではウイルスに感染した場合を例にしましょう。

免疫のきっかけとなる細胞はマクロファージなどの食細胞です。異物を見つけ、ぱくぱく食べます。このときに自分の細胞と異物を見分ける目印となるものは、それぞれがもつタンパク質で「抗原」といいます。
マクロファージはウイルスを食べ、かみちぎり、その断片を「抗原」として掲げながら、ヘルパーT細胞に「こんなヤツがいました」と伝えます。(いわゆるチクりですね)。
抗原を受け取ったヘルパーT細胞は抗原を調べ、「これは自分ではない。異物だ!」と認識するとサイトカインという化学物質を放出します。
そして、キラーT細胞が登場です。眠っていたキラーT細胞はサイトカインの刺激を受けて目を覚まし、ウイルスに感染した細胞を攻撃します。
しかし、キラーT細胞は細胞を攻撃しますが、ウイルスそのものは攻撃しません。それを行うのはB細胞という別の細胞です。B細胞もサイトカインの刺激を受けて目を覚まし、「抗体」という飛び道具でウイルスを捕らえて活力を失わせるのです。

図1:免疫の仕組み

② 抗体ってなに?~石坂博士IgE発見物語~

抗体は、2本の長いタンパク質(H鎖)と2本の短いタンパク質(L鎖)でできています。H鎖とL鎖で作られる先端の部分は「可変領域」といい、それぞれの抗体で形が異なります。抗体はこの可変領域で、ぴったりとあてはまる異物を捕まえます(可変領域は遺伝子の組み合わせで1000万種以上の多様性があるので、無数の抗原に対する抗体を作ることができます。多様性を生み出すこの仕組みの発見は利根川進博士によるもので、1987年のノーベル生理学・医学賞に輝きました)。

図2:抗体

そして、抗体には「定常領域」があり、定常領域の違いで「IgG」「IgM」「IgA」「IgD」の4種類があることがわかっていました。これらに加えて5つ目の抗体「IgE」を発見したのが石坂博士なのです。

石坂博士がIgEを発見した1960年代、アレルギーの原因を探せ!という時代の流れがありました。石坂公成博士と妻の照子博士は原因を突き止めるべく、花粉症やアトピー性皮膚炎を患う一人の少年から血液を採取し、原因と思われる抗体を抽出しました。そして、狙った抗体と花粉抽出物を自らの背中に注射。狙い通り背中は赤く腫れ上がり、目的の抗体「IgE」を見つけ出したのです。
「IgE」のEには紅斑(Erythema)の頭文字とアルファベットの5番目(抗体発見5番目)という意味が込められています。ネーミングセンスも抜群ですね!
お二人で力を合わせて大発見をされた姿から、石坂夫妻は「現代版キュリー夫妻」とも言われています。そのお二人はIgEによってアレルギー症状が引き起こされる機構も解明しました。

③ IgE抗体がアレルギーを引き起こす仕組み

B細胞が放ったIgEは肥満細胞という細胞に拾われます。肥満細胞は、皮膚や気道粘膜、腸管粘膜などの外界に接する部分のすぐ下、つまり、外界からの異物をまっさきに捕まえられるところに広く分布しています。肥満細胞は抗原となる異物が侵入してくるとIgEをフォークのように使って抗原を捕まえ、ヒスタミンやセロトニンといった化学伝達物質を放出します。

図3:IgE抗体がアレルギーを引き起こす仕組み

この放出された化学伝達物質は細胞の表面にある受容体(鍵穴のような部分)にくっつきます。すると、細胞はこれを刺激として異物を除去しようとします。例えば、化学伝達物質が神経細胞の受容体にくっつき刺激すると、異物を除去するためにくしゃみや鼻水が出ます。

私たちを悩ませるアレルギーの原因と機構を明らかにした石坂博士。免疫学の新たな視点を生み出した偉大な発見です。
この偉大な発見をされた石坂公成博士が今年のノーベル生理学・医学賞を手にする可能性はとても高い...どころかどうして今まで取っていなかったんだ!といえるでしょう。

そして、私はもう一人、坂口志文博士も候補として挙げさせていただきました。石坂先生によってアレルギー研究は大いに進歩しましたが、まだ治療法は確立されていませんよね?
なんと坂口博士が発見した制御性T細胞はアレルギー治療やがん治療への新たな光となるかもしれないのです。

次は坂口先生が発見した制御性T細胞についてのブログを載せます。こちらもぜひご覧下さい!

【参考文献】
・講談社サイエンティクス「好きになる免疫学」
・ブルーバックス 「現代免疫物語」

2016年ノーベル賞を予想する

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