「わかんないよね新型コロナ ここでいったん振り返ろう」

ニコ生で放送中! 6/28放送分の振り返り

こんにちは、科学コミュニケーターの小林です。

6月のニコニコ生放送「わかんないよね新型コロナ~ここでいったん振り返ろう~」も、このブログで振り返る28日(日)の放送回が最後となりました。新型コロナの第1波で起きていたことやわかってきたことを週に1回の放送で一緒に振り返ってきましたが、いかがでしたでしょうか。

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6月28日のテーマは「日本のこと、世界のこと」。これから来るであろう第2波に備えるために、これまで日本がやってきた対策を振り返り、良かった点、改善できそうな点の整理を試みました。また、うまく流行を抑え込めた海外の事例からもヒントを得たい!ということで、今回はベトナムと台湾に注目。もちろん社会的な背景が違うので、日本でまったく同じことができるわけではないのですが、見習いたい部分も見えてきました。ご登場いただいたのは、毎回の放送でおなじみの感染症対策のプロ・国立国際医療研究センター 国際感染症センターの堀成美さん。そしてゲストには、ベトナムで臨床医・産業医として活躍されている中島敏彦先生をお呼びしました。

日本の対策振り返り

東京の新規感染者数の推移をどうみる?

まずは現状の確認から。東京都の新規感染者数は6月上旬から628日の放送日にかけてじわりじわりと増えています。堀さんはこの状況をどのように見ているのでしょうか?

堀さんはまず、「どういう人を対象に検査しているのか。その方針が変わってしまうと数字を単純に比較できない」と指摘します。たとえば新規感染者が50人という数字があったとして、その数字が症状のある人だけを対象に検査をした結果なのか、無症状の人に対しても積極的に検査をした結果なのかによって、数字の持つ意味は違ってきます。実際に、最近は無症状の人や特定の業種の方々に対する検査も増えているとのこと。

重要なのは数字そのものではなく、その結果を受けて対策が変わるかどうか。いまのところ、今日・明日で私たちがやるべきことが変わるわけではありません。今はまだ「対策の手を緩めず、これまで学んだ対策を自分の生活に合わせてやっていく状況」と堀さん。毎日の数字に一喜一憂して、振り回されないことが大事です。

日本の感染症対策で、過去の経験が活かされていることは?

日本の新型コロナ対策を振り返ってみると、そこには過去の感染症流行の経験が見えてきます。

クラスター対策の考え方もそのひとつ。

「いつ」「どこで」「誰が」の3点を特定することは感染症対策の基本!

新型コロナでは、感染者の行動履歴をたどって共通の感染源となった「場」を探す、クラスター対策が行われました。これは、いわゆる“集団感染”に対して、今までも行われてきた対策です。例えば、濃接接触者への検査は結核の対応でも行われますし、接触者の特定を急ピッチで進めていく対応は麻疹でもみられます。これらはいずれも、感染者の周りにいる人の健康を守ることが目的です。

この点で、少し新しい戦略を展開したのが韓国です。2015年のMERSのアウトブレイクを経験した韓国は、大規模な検査キャパシティを活用して、少しでも感染した可能性のある人を見逃さず、着実に感染者の人数を減らしていく方針をとりました。韓国が導入したのは、感染者がいつ・どこにいたのかをスマホアプリで公表する仕組みです。それを見て、「私も同じ時間・同じ場所にいたから、検査を受けた方がいいかも」と思った人がすぐに検査を受けられる体制を整えていました。無症状の人にもどんどん検査を行うという戦略は、新型コロナ以前ではあまり見られないやり方だったと堀さんはおっしゃいます。

では、個人レベルでやっている対策はどうでしょうか?

実は、飛沫対策、手洗い、3密を避ける考え方などは100年前のスペイン風邪の時から変わっていません。効果が確実だからこそ変わらず行われてきたと考えると、基本に忠実であることの重要さが見えてきます。「地味だけど続けていくことが重要」という堀さんの言葉にも納得です。

海外の対策例 ①ベトナムについて

海外の成功例からも学びたい!ということで、今回注目したのはベトナム社会主義共和国。公開されているデータによると、628日の朝の時点で総感染者数は355人、そして死亡者はゼロ。流行初期の時点で「経済を犠牲にして感染症対策をやる」と首相が宣言したという話もあり、社会主義国ならではのトップの強さを感じると同時に、実際の様子が気になってきます。

そこで今回は、ベトナムの私立病院(ラッフルズメディカルホーチミン)で臨床医として活動されている中島敏彦先生に、データからは見えてこない現地の様子をうかがいました。

中島先生は産業医として渡航者への医療アドバイスも行っています

ベトナムで新型コロナの死者数ゼロの理由は?

世界各国が苦労している様子を見ているためか、ベトナムの「死者数ゼロ」という数字には驚きと邪推がつきまといますが、この数字は臨床の現場にいた中島先生の肌感覚とも合っているといいます。新規感染者の多くが外国人だったベトナムにおいて、中島先生が勤務する外国人向けのクリニックは最前線の現場。それでも当時疑わしいケースはたった2例、重症者を診療することはほとんどなかったそうです。

どうしてこれほどまでに感染者数を抑えることができたのでしょうか?

中島先生は「国外から入ってくる感染者から流行を広げないようにする、水際対策がうまくいった」といいます。十分な準備態勢が整っていなかったベトナムでは、1月下旬に中国からの観光客で感染が確認されると、即座にベトナムと武漢をつなぐ直行便をストップさせました。25日には、過去14日間に中国に滞在歴のある外国人に対し、公務以外での入国を禁止する措置をとりました。とにかく徹底的な水際対策で流行を抑えながら、医療体制を整えていったのです。

ベトナム国内での感染拡大の対策は?

ベトナムがとった作戦は「感染が疑われる人は、とにかく隔離する」こと。

感染が疑われる患者さんが見つかった場合、PCR検査も行われましたが「検査と14日間の隔離は必ずセットになっていた」と中島先生。検査の目的は、隔離した人の状態の確認だったといいます。

また、感染者だけでなく、濃厚接触者が隔離対象であったことも特徴です。濃厚接触者と判明した時点では陰性だった人が、後から陽性に転じるケースがありますが、最初から隔離されていれば感染が広がらずに済むというわけです。

そしてなにより驚いたのが隔離の範囲。クラスターが発生した地域では、マンションごと、あるいは村ごと封鎖するというケースもあったそうです。この徹底ぶりには、とにかく流行を拡大させてはならないという強い意志を感じました。

「密になりそうな場所は丸ごと隔離」という大胆な対策が行われた

都市封鎖の際には、対象地域の人に対する偏見や差別の声もあったといいます。一方で、患者さんが退院する様子などのポジティブなニュースもメディアから連日のように発信され、人々を不安にさせないための情報戦略がとられていたようです。日本のような民主主義の国では情報統制とのバランスが難しい話題ではありますが、不必要に不安を煽らないという点はとても大事なポイントだと思います。

ベトナムの生活環境はどうですか?

そもそも、ベトナムの人々の生活環境――たとえば住環境などはどうなっているのでしょうか?

「東南アジアの発展途上国、という一般的なイメージとそんなに離れていないと思う」と中島先生。一家族がひとつの部屋に集まって生活していたり、軒先でコーヒーを飲みながら談笑したりしているそうです。

一方で、IT技術がよく普及しているといいます。通信手段として、固定電話やFAXが普及する前にスマホが一気に使われ始めたベトナム。都市封鎖したときにもデリバリーサービスが動いていたので、食べ物の調達にはあまり困らなかったようです。また、日本では新型コロナの流行をきっかけに注目されはじめた遠隔診療も、ベトナムでは以前から行われていたという点も驚きです。ステイホームをするためのインフラがもともと整っていたのですね。

経済の状況はどうなっている?

さて、強制力の強い対策には反動がつきもの。気になるのは経済の状況です。とくにベトナムの首相は早々と経済を犠牲にしても感染を押さえ込むと言っていました。

ところが実際は、各国が苦戦する中、ベトナムの2020年第1四半期の実質GDP成長率(推計値)はプラス3.8%。2019年の成長率プラス7%と比べて下がっているとはいえ、その力強さに驚かされます。日本にも多くのベトナム製の服が輸出されていますが、コロナ禍を受けて縫製業はマスクづくりへと転換したそうです。また、自動車工場やスマートフォン生産工場で人工呼吸器の生産を開始した企業もあったといいます。6月時点でまだ経済的な打撃は残っているものの、中島先生の印象では、感染拡大を抑え込めたベトナムの市民生活は完全にコロナ以前の状態に戻っているとのことです。

でも、成長率が減った分だけしわ寄せがきているのも事実です。中島先生の肌感覚では、観光業が大きなダメージを受けているとのこと。他にも、現地採用の日本人が帰国を余儀なくされたり、国外向けの事業をしている企業では多くの労働者が解雇されたりするなど、やはり状況は芳しくありません。

ベトナムが経済を犠牲にしてでも対策を最優先できた要因について伺ったところ、中島先生は「社会主義という政治体制と、政府に実行力があったこと」そして「SARSに対応した経験を活かしている」という2点を挙げていました。

視聴者コメントでも「日本で村ごと隔離をするのは難しそう…」とあったように、日本でこれほど厳密な隔離は行うのは現実的ではなさそうです。一方で、不必要に不安を煽らないようにポジティブなニュースを流すことや、過去の感染症流行を活かす姿勢など、ベトナムから学びたい部分も見えてきました。

海外の対策例 ②台湾について

続いてご紹介したのは台湾。注目ポイントはスムーズな物資の増産と分配です。

台湾ではSARS流行の経験を活かし、平常時から防護具の備蓄体制が整っていました。また、初の感染者が報告された3日後には医療用マスクの輸出を禁止するなど、需要の増加に備える素早い動きも特徴的でした。国内でのマスク生産にも力を入れ、1月には190万毎/日だった生産量が5月には1800/日までに増加しています。

そして、マスクの分配は国が主導して医療機関に優先的に供給され、一般市民に対してもIT技術を活用して効率よく分配がされていたようです。

日本が台湾のように備えるには?

日本ではマスクが不足し、医療機関にも必要な分量が供給されない期間がありました。

不織布マスクの多くを輸入に頼っている日本において、このようなマスク不足問題が起こることは、実は想定済みでした。20089月、新型インフルエンザが流行した場合への備えとしてまとめられた報告書に「ある程度の備蓄を推奨する」と書かれています。せっかく報告書になっていたにもかかわらず、それを活かせなかった私たち。今回の教訓を生かしてどのように第2波に備えれば良いのでしょうか?

※6月28日の放送では、この報告書を2009年の新型インフルエンザ流行の後に書かれたものとしてお伝えしてしまいました。訂正して、お詫びいたします。

『新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方(新型インフルエンザ専門家会議 平成20年9月22日)』p.2より。3つめの項目でマスクの備蓄が推奨されている。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf

台湾のように備蓄をするのも解決策のひとつですが、「日本の、特に都市部の病院は、スペースの都合で備蓄をすることが難しい」と堀さんは指摘します。

せめて、ある分だけでも必要な場所に届くようにするために、私たちにできることは買占めを減らすことではないでしょうか。

日本のマスクに関する話題を時系列で整理してみました

厚生労働省から「買占めをしないで」と呼びかけるポスターが公表されたのが2月の中旬。転売目的の買い占めに対する規制はさらに1カ月後になります。一方で、不織布マスクでなく、布マスクにも一定の効果があることが注目されるようにもなってきました。新型コロナ対策においては、飛沫の吸い込みを防ぐためにマスクをつけるというよりは、無症状の感染者が知らずに飛沫をまき散らさないためにマスクを着用する、ということが広く知られるようになってきたからです。

今回の流行を通して、マスクにもいろいろ種類があること、着用する人・目的によって使えるマスクが違うのだということを、私たちは改めて整理し直すことができました。次の流行の波が来たときには、今度こそ冷静に対応したいものです。

日本の第1波、第2波を振り返る

日本の感染症対策で良かった点や、改善できる点は?

第1波は落ち着いてきましたが、まだまだ流行は続いている状況です。ここから先は、周りの感染状況 (リスク)に合わせて、一人ひとりの対策を続けていくことが重要になってきます。理想は「過剰ではなく必要なことをやっていく」。言うは易し、ですね。

しかし、「予防対策」というのは、うまくいくほど効果が見えにくいので評価されづらいものです。そこで最後に、日本の感染症対策を振り返って、よかった点・改善できそうな点をそれぞれ堀さんにうかがってみました。

よかった点として「マスクを効果的に使えてよかった」と堀さん。たしかに、マスクの着用要請に対して反発が起きることはなく、自然に、そして粛々と対策ができていました。平常時からマスクの着用率が高い日本人の習慣が良い方向に影響したといえそうです。

一方で、改善したい点として「自粛警察、感染者を責める風潮」が挙がりました。この番組でも何度か話題にしてきましたが、他者を責める空気は人々を委縮させてしまい、本当に必要な対応や支援が遅れてしまう原因になってしまいます。また、感染や体調不良を隠すことにもつながりかねません。失敗は成功の母として、次の対策に活かしていけるといいですよね。

この数カ月間、わからないことだらけの新型コロナに対して、私たちはわからないなりに対策をとってきました。感染症のこと、ウイルスのこと、マスクのこと…学んだことも多かったはず。この経験を活かしつつ、新型コロナ対策を引き続きやっていきましょう。

【お知らせ】7月31日18時より、いただいたご質問にひたすらお答えする最終回をやります!

4月の番組開始当初から、視聴者のみなさまにはSlidoTwitter、そしてニコ生のコメントを通してたくさんのご質問をいただいてきました。質問の内容・量からみなさまの関心の高さをうかがい知ることができ、みなさまの声が私たちのモチベーションの源になっていたことは間違いありません。質問やコメントをくださったみなさま、本当にありがとうございました!

なるべく質問にお答えするように努めてきたものの、全然追い付かない現状にスタッフ一同、歯がゆい思いをしておりました。そこで、これまでいただいた質問にひたすらお答えする2時間拡大放送を以下の日程でお送りいたします。

わかんないよね新型コロナ みなさんの質問にお答えスペシャル

7月31日(金)18時~20時

ご視聴はコチラから

6月28日の放送トピック一覧

この番組のアーカイブは無料でご視聴いただけます。放送トピックを一覧にしましたので、ご視聴の際の目安にお使いください。

視聴URLhttps://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323634

 

【日本の新型コロナ対策を振り返る】

・東京の新規感染者数の推移をどうみる?(03:50~)

・日本の感染症対策で、過去の経験が活かされていることは?(08:40~)

・日本の対策の新しいところは?(13:40~)

 

【海外の対策例 ① ベトナムについて】

ゲスト:中島敏彦先生(ラッフルズメディカルホーチミン・臨床医)

・ベトナムで新型コロナの死者数ゼロの理由は?(20:00~)

・国内での感染拡大の対策は?(22:24~)

PCR検査、受けたい人は受けられた?(24:50~)

・隔離中に逃げ出したら、罰則は?(27:48~)

・ベトナムの生活環境はどうですか?(30:10~)

・感染拡大した場合への備えはあった?(35:57~)

・ベトナムでは、感染者や医療者への偏見は?(37:28~)

・経済の状況はどうなっている ? (42:15~)

・経済を犠牲にしてでも対策を最優先する、と決断できた要因は?(45:00~)

・困っている国民への経済的な支援は? (46:45~)

・ベトナムでも消毒はされている?(47:20~)

・学校は始まっている? (47:35)

 

【海外の対策例 ②台湾について】

・台湾は、物資の生産と分配がうまくできた(53:23~)

・物資の不足は、感染症対策にどう影響する?日本が台湾のように備えるには?(54:40~)

 

【海外の事例を踏まえて、日本の第1波、第2波を考える】

・いまの医療現場の物資は足りている?(1:04:30~)

・日本の感染症対策で良かった点や、改善できる点は?(1:09:40~)

6月は毎週日曜日14:00から放送しました

当番組「わかんないよね新型コロナ ここでいったん振り返ろう」はニコニコ生放送で放送しました。ぜひ気になるところから、過去の放送を覗いてみてください。すべて無料でご視聴いただけます。

放送内容:https://www.miraikan.jst.go.jp/resources/COVID-19/nicovideo/

 

7日「私たちが本当に困ったこと」

担当科学コミュニケーター:綾塚

視聴URLhttps://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323350

内容紹介ブログ:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200612-67.html

 

14日「新型コロナの症状・治療のこと」

担当科学コミュニケーター:髙橋

視聴URLhttps://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323414

内容紹介ブログ:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200626-614.html

 

21日「不要不急ってどんなこと?」

担当科学コミュニケーター:田中、山本

視聴URLhttps://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323626

内容紹介ブログ:

<前半>https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200701-621.html

<後半>https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20200706post-346.html

 

28日「日本のこと、世界のこと」

担当科学コミュニケーター:伊達、小林

視聴URLhttps://live2.nicovideo.jp/watch/lv326323634

内容紹介ブログ:本稿

 

※「過去の放送内容」として、4月、5月に放送していた「わかんないよね新型コロナ~だからプロにきいてみよう~」の内容紹介ブログも一覧にしています。各ブログでは、各回の放送トピックと視聴URLもご紹介しています。

「医療・医学」の記事一覧